問題解決の思考技法は世の中に大量にあります。5 Whys、Fishbone、Pre-mortem、Inversion、SCAMPER、Six Thinking Hats、MECE、Issue Tree……名前だけ知っていても、いざ問題を前にすると「今これに何を使うべきか」が出てこないことが多いです。
そこで試しているのが、56個の思考技法をライブラリ化しておき、「今この問題にどの技法が効くか」を AI 自身に選別させるメタ思考フレームワークです。Plan mode と Sub agent の組み合わせで、判断根拠を透明化したまま回せます。
なぜ「技法選択」を AI に任せるのか
人間は得意な技法に偏る
問題解決の現場で起きることは決まっていて、自分が好きな技法を毎回使ってしまう現象です。5 Whys が好きな人は何でも 5 Whys、ロジックツリー派は何でもツリーに分解します。問題の性質と技法の相性を毎回ゼロから考えるのは負荷が高く、つい慣れた道具に手が伸びます。
これは個人だけでなくチームでも起きます。「うちは Fishbone でやる文化」と決めてしまうと、Fishbone が向かない問題(時系列の遅延要因や、外部環境変化など)でも無理に当てはめます。結果、得られる洞察が浅くなります。
AI は技法カタログを横断できる
AI は技法カタログを丸ごと参照できるので、「この問題の性質に合うのはどれか」を56個から並列に評価できます。人間が頭の中でやろうとすると、思い出せる範囲(多くて10種類)でしか選べません。
加えて AI は「選んだ理由」を言語化させられます。後から「なぜこの技法を選んだか」を読み返せるので、判断の透明性が確保できます。
実装:3フェーズに分けて選別させる
Phase 1: 情報収集(問題の性質を AI に把握させる)
最初に、問題のメタ情報を AI に渡します。何を解きたいかではなく、問題の構造を伝えるのがポイントです。
1以下の問題について、性質を分析してください。2分析項目(各1-2行):3
41. 問題のタイプ(原因究明 / 設計 / 評価 / 予測 / 意思決定 のどれか)52. 既知度(既知の問題か / 新規の問題か)63. 時間制約(即応必要 / 中期 / 長期)74. 関係者数(個人 / 小チーム / 組織横断)85. 失敗の性質(顕在 / サイレント / 反復 / 一回性)96. データの有無(定量データあり / 定性のみ / データ不足)107. 不確実性(高 / 中 / 低)11
12【問題】13スケジュールジョブのサイレント障害が月に数回発生し、14気づくのが下流ジョブの停止後になるケースが続いている。15既存の監視・アラートはあるが鳴っていない。ここで AI が問題の性質を勘違いしていないかを人間が必ず確認します。Phase 1 のアウトプットがズレていると、Phase 2 で見当違いの技法が選ばれます。
Phase 2: 技法選別(56個ライブラリから候補を絞らせる)
技法ライブラリは別ファイルとして用意しておきます。1技法あたり以下のフォーマットでまとめておくと、AI が判断しやすくなります。
1## 技法名: 5 Whys2- 目的: 表層原因から根本原因への深掘り3- 向く問題: 単線的な因果が想定される / 既知タイプの障害4- 向かない問題: 複数原因の絡み合い / 確率的な事象5- 必要データ: なし(事実の積み重ねで進む)6- 所要時間: 30分〜1時間7- 出力形式: 因果チェーンこれを 56 技法分用意します。最初は大変ですが、一度作れば再利用できます。
Phase 2 では Sub agent を立ち上げ、ライブラリと Phase 1 のメタ情報を渡して、Top 3 候補と落選理由を出させます。
1以下の問題性質に最も合う思考技法を、添付ライブラリから2Top 3 選んでください。さらに、検討したが外した技法を33つと、外した理由も出してください。4
5【出力フォーマット】6## 採用候補71. 技法名 - 採用理由(問題性質のどの軸に合致するか)82. ...93. ...10
11## 検討して外した121. 技法名 - 外した理由132. ...143. ...「外した理由」を出させるのが効きます。これがないと AI が最初に思いついた3個を返すだけで、本当に比較した形跡が残りません。
Phase 3: 評価(選別の妥当性を別の AI に検証させる)
最後に、Phase 2 の結果を別のセッションに投げて検証させます。
1以下は問題分析と、選ばれた技法 Top 3 です。2この選択に対して、以下を評価してください:3
41. 採用された3技法は、互いに重複していないか52. 採用された3技法で、問題性質の主要な軸を全てカバーしているか63. 「外された技法」の中に、本来採用すべきものはないか74. 全く検討されていない技法カテゴリはないか8
9評価は批判的に行ってください。10妥当な選択ならその根拠を、不適切な選択なら代替案を出してください。このセルフレビューがないと、Phase 2 の AI が自信過剰に1案を推しすぎる問題が出ます。別セッションで批判的レビューさせると、第3者視点が確保できます。
実際に動かすとどうなるか
「サイレント障害多発」という性質に対して、3フェーズを回したときの典型例です。
Phase 1 の出力例
- 問題タイプ: 原因究明 + 設計(再発防止)
- 既知度: 既知(似た事象が複数回)
- 時間制約: 中期
- 関係者数: 個人〜小チーム
- 失敗の性質: サイレント + 反復
- データ: 定量(実行ログ)あり、定性(運用感覚)あり
- 不確実性: 中(原因仮説は複数)
Phase 2 の出力例(採用候補 Top 3)
- Pre-mortem — サイレントかつ反復する性質に対し、未来から逆算して「再発時に何が起きているか」を先回りで描く
- Fishbone(特性要因図) — 複数原因の絡み合いに強く、定量データを各骨に紐付けやすい
- Bow-tie analysis — 原因系(左半分)と結果系(右半分)を独立に分解できるので、検知の盲点と影響緩和を別々に設計できる
Phase 2 の出力例(外した技法)
- 5 Whys — 単線的な因果を仮定する技法だが、サイレント障害は複数の原因が同時に成立しやすく不適
- SCAMPER — 主に新機能・新製品の創発系で、原因究明には弱い
- Six Thinking Hats — 多視点の発散には強いが、データに基づく原因究明より意思決定向き
Phase 3 の出力例(批判レビュー)
採用された3技法は重複が少なく、原因系と対策系の両方を含んでいる点で妥当です。ただし、「FMEA(故障モード影響解析)」が検討されていないのが気になります。サイレント障害の「気づかなさ」は検出度(D)の評価で扱える領域であり、Bow-tie より定量的な優先順位付けが可能です。Top 3 のうち1つを FMEA に置き換えるか、補助技法として併用することを推奨します。
このように、別セッションで批判的レビューさせると漏れが見つかります。
エンジニアにとっての価値
1. 「思考の思考」が外注できる
問題解決の難所は、問題そのものを解く前段階の「どう解くか」を決めるところです。ここを AI に外注できると、本題に入る前のエネルギー消費が大幅に減ります。
2. 判断根拠が透明・後追い可能になる
3フェーズの出力をすべて記録しておけば、3ヶ月後に「なぜこの技法を選んだか」「他に検討した候補は何か」が読み返せます。チーム内で共有するときも、結論だけでなく選択の経緯を共有できるので説得力が増します。
3. Plan mode + Sub agent の使い分け学習になる
3フェーズはそれぞれ役割が違います。Phase 1 は情報整理、Phase 2 は候補絞り込み、Phase 3 は批判的レビュー。同じ AI でも、目的が違えば別セッションに分けるべきことが体感できます。これは他のワークフロー(リサーチ・設計レビュー・コードレビュー)にも応用できる原則です。
落とし穴と対処
落とし穴1: ライブラリが薄いと選択肢が偏る
技法を10個しか定義していないと、AI は10個の中から無理やり3個選びます。最低でも30〜50技法は揃えるのが目安です。56個まで増やすと、原因究明・設計・評価・予測・意思決定の5タイプそれぞれに10技法ずつ確保できます。
落とし穴2: メタ情報の粒度が粗すぎる
Phase 1 で「問題タイプ: 全部」のように粗く出ると、Phase 2 でも「全部に効く技法」が選ばれて意味がなくなります。問題タイプは1つか2つまでに絞らせます。複数タイプが混在しているなら問題を分割すべきサインです。
落とし穴3: Phase 3 を省略する
時間が惜しくて Phase 3 をスキップすると、Phase 2 の選択がそのまま採用されます。3技法のうち1つは漏れていることが経験上多いので、Phase 3 を省略すると痛い目を見ます。Phase 3 は5〜10分で終わるので、必ず通します。
落とし穴4: 技法を選んだ後の「実行」を AI に丸投げする
技法選別までは AI に任せて良いですが、実際にその技法で問題を分析する作業は人間が主導するか、AI と対話しながら進めます。AI に「Pre-mortem を実行してください」と丸投げすると、もっともらしい一般論しか返ってこないことが多いです。
適用範囲
この手法が効くシーン:
- 反復している問題で、これまでの解き方が効いていないとき
- チームで問題解決に入る前の「どう解くか」を決めるミーティング
- 自分が属さない領域の問題を相談されたとき
- 大きな意思決定の前に、検討漏れがないかチェックするとき
効きにくいシーン:
- 即応が必要な障害対応(選んでいる時間がない)
- 単純な技術選定(フレームワーク比較などは技法以前)
- 答えが既に見えている問題(検証だけで足りる)
まとめ
| ステップ | ポイント |
|---|---|
| 1. ライブラリ準備 | 30〜50技法を一定フォーマットで |
| 2. Phase 1: メタ情報 | 7軸で問題性質を AI に分析させ、人間が確認 |
| 3. Phase 2: 候補絞り | Top 3 + 外した技法3つを必ず出させる |
| 4. Phase 3: 批判レビュー | 別セッションで漏れ・重複を指摘させる |
| 5. 実行は人間主導 | 技法選別は AI、適用は人間 |
「思考の思考」を AI に外注すると、判断根拠が透明になり、後から検証可能になります。Plan mode と Sub agent の高度な使い分けとしても応用範囲が広いです。問題解決のスタート地点でつまずくことが減りました。